過敏性腸症候群(IBS)の診断基準と治療法
仕事や学校でのストレスがたまったときに「やばい、お腹が・・・」と冷や汗をかき、トイレにかけこむことありませんか?
その症状、もしかしたら「過敏性腸症候群(IBS)」かもしれません。過敏性腸症候群(IBS)は食中毒や腸の炎症がないのに、下痢や腹痛、便秘などが頻発する病気です。
人によってはお腹の音が頻繁に鳴ったり、ガス(おなら)が出やすくなります。
はっきりとした原因は不明ですが、ストレスで症状が悪化します。
そのため「お腹が痛くなったらどうしよう」「下痢になったらトイレはあるだろうか」「お腹の音が聞こえてしまうんじゃないか」などを心配することでストレスが強くなり、より症状を悪化させてしまう悪循環が起こります。
この病気は日本人の7人に1人に当てはまるとも言われ、特に10代~30代の若い人に多く見られます。
しかし、この病気の認知度は低く相談しづらい症状のため、自分で抱え込み苦しんでいる人が多いのも特徴です。
多くの人にこの病気を知っていただけるよう、原因や治療法について紹介していきます。
過敏性腸症候群の検査は存在しない?
「私も下痢や腹痛があるから病気なの!?」
そう思ったあなたに、過敏性腸症候群(IBS)の判断基準をお伝えします。
実は過敏性腸症候群の検査というものは存在しません。
ではどうやって調べるのか。他にお腹の病気がないかを調べ、なければ消去法的に選択されるのがこの病気の特徴です。言いかえると、検査で異常がないことが診断の条件なのです。
これだけではあまりにも曖昧なので、日本でも使われている国際的な診断基準が存在します。
過敏性腸症候群の診断に使われるRome基準とは
過敏性腸症候群は世界中で見られる病気のため、国際的な診断基準があります。それを「Rome(ローマ)基準」といいます。
最新のものは2016年、国際消化器学会での会議を元に発表された「RomeⅣ(ローマ4)」です。ただ、現在日本で広く普及しているのは以前に発表された「RomeⅢ(ローマ3)」ですので、そちらを紹介します。
過去3ヵ月、月に3日以上にわたって腹痛や腹部の不快感が繰り返し起こり、
- 排便によって症状が軽減する
- 発症時に、排便頻度の変化がある
- 発症時に、便形状(外観)の変化がある
1~3の内、二つ以上当てはまる場合は過敏性腸症候群を疑う。
あなたに当てはまれば過敏性腸症候群(IBS)の可能性があります。はっきり知りたい場合は、内科などを受診し検査を受けましょう。
過敏性腸症候群には分類がある
過敏性腸症候群(IBS)には便の形状によって4種類の分類がされています。先ほど紹介したRomeⅢではこのようになっています。
①便秘型
便秘の症状が多く見られるタイプです。カチカチ便やコロコロ便が全体の25%以上あり、下痢便が25%以下の場合当てはまります。
②下痢型
下痢の症状が多く見られるタイプです。軟便や水様便が全体の25%以上あり、カチカチ便が25%以下の場合当てはまります。
③(便秘下痢の)混合型
便秘が続き、やっと出たと思ったら今度は下痢に。落ち着いたらまた便秘に・・・。このようにカチカチ便と下痢便がどちらも25%以上ある場合に当てはまります。
④分類不能型
①~③のどれにも当てはまらない場合、これが当てはまります。
「ガス型もあるんじゃないの?」と言われることがありますが、今回紹介した基準の中に「ガス型」という分類はありません。
しかし、ガス症状でも多くの人が悩んでいる現実があります。その一部を紹介します。
過敏性腸症候群と一緒にあわられやすい症状
過敏性腸症候群(IBS)には下痢や便秘、腹痛以外にも同時に見られる症状が多くあります。
・ガス症状(ガスがたまる、おならが漏れる)
・腹鳴(お腹が鳴る)
・ゲップ
・お腹が張る
このような症状が気になり、外出ができなくなったり仕事で支障が出るなど生活に大きく影響してきます。
次は、なぜこのような症状があらわれるのか原因を考えていきます。
過敏性腸症候群の原因は様々
過敏性腸症候群(IBS)のハッキリとした原因はわかっていません。ただ、患者さんの腸などを調べることで共通点が見えてきました。
- 腸が痛みに敏感
- 腸の動きの異常
- ストレスに腸が敏感に反応
まさに、腸が「過敏」に反応してしまうことで症状が出ていることがわかります。
一部の方では受験や仕事でのノルマなど強いストレスや、感染性胃腸炎をきっかけに発症する例も見られます。
過敏性腸症候群の治し方
治りづらいとされる過敏性腸症候群(IBS)ですが、一般的に効果があるとされる治療法はあります。1つずつ下痢や便秘などの症状に合わせて解説していきます。
生活習慣の改善
- 睡眠時間をしっかり確保する
- 起床・就寝・食事の時間を一定にする
- 一人でストレスを溜めず人に相談する
- ウォーキングやサイクリングなど有酸素運動を習慣にする
これらは全てストレスに強い体を保つために重要となります。下痢や便秘などの症状に関係なく、過敏性腸症候群(IBS)の症状全般に効果的です。
睡眠不足やストレスを溜め込むことで、少しのストレスにも腸が反応しやすくなることがあるのです。
食事内容の見直し
お腹にいい食事、と言えば食物繊維や乳酸菌がすぐに思いつくと思います。便秘症状の強い方には、腸内環境の改善を意識したヨーグルトや野菜を中心とした食物繊維を意識することは重要になります。合わせて水分を十分に摂取することも重要です。起きてすぐの水分摂取は腸の運動を促します。
しかし、これらの取り組みは下痢型やガス症状の強い人には向いていません。場合によっては症状を悪化させる可能性があります。
そこでオススメは「低フォドマップ食」です。海外を中心に実践されている食事療法です。
発酵性の炭水化物を除いた食事をすることで、腸内の水分量を調整し発酵によるガスの量を減らします。様々な論文でその効果が発表されており、試す価値のある方法でしょう。
人によっては、アルコールや肉、辛いものなど刺激物が影響することがあるため、自分に合わないものを見つけることが重要となります。
薬物療法の導入
病院では薬での治療がメインとなります。よく「何科に行けばいいのか」と聞かれますが、近くに胃腸(消化器)内科があれば、そちらで相談することをおすすめします。
薬は症状によって様々な種類があります。
どのような症状でも、高分子重合体・乳酸菌製剤・漢方薬が使われます。
便秘であれば合わせてGC-C受容体作動薬や下剤が。
下痢であればセロトニン受容体拮抗薬や消化運動調律薬などがあります。
食事や薬は日々研究が進んでおり、新しいものが出ています。常に最新の情報を得ながら改善を目指したいですね。